HOME > 感染予防教室 > あの先生この先生の専門家コラム > 第7回: 『在宅訪問入浴・施設入浴と感染症予防』

感染予防教室

●あの先生この先生の専門家コラム

第7回: 『在宅訪問入浴・施設入浴と感染症予防』
茨城県立医療大学 医科学センター教授 小池 和子

近年の我が国における急速な高齢化、さらに2000年4月の介護保険制度施行にともない、高齢者の在宅療養や施設療養者が急増し、在宅あるいは施設における入浴介護サービスのニーズが増加しています。一方で高齢者施設におけるMRSA感染事例の増加はもとより、最近は、レジオネラ菌による集団感染も数事例発症し、死亡例も出すなど、「入浴にかかわる感染」が話題となっています。

感染症の成立には(1)病原微生物、(2)宿主、(3)感染経路、の三要因の存在が不可欠となります。一般に介護を受けている高齢の在宅療養者あるいは施設療養者は、病原微生物に対する生体の感染防御機能が減弱しており(易感染宿主という)、健常人にとって無害な菌にでも容易に感染し、発症してしまうことがあります。このような感染の成立を日和見感染といい、その原因となる微生物を日和見病原菌といいます。高齢者が発症しやすい日和見病原菌としては、(1)黄色ブドウ球菌・緑膿菌・レジオネラ・セラチアなどの細菌、(2)インフルエンザ・ヘルペス・水痘ウイルス・サイトメガロウィルスなどのウイルスなどのウイルス、(3)カンジダ・アスペルギルス・白癬菌などの真菌類、(4)トキソプラズマ・クリプトスポリジウム・カリニなどの原虫が挙げられます。また健常者にも感染する機会が多いものとして、疥癬(ヒゼンダニ)などが挙げられます。これらの菌による感染症を防止するためには、感染源(病原菌)の除去に加え、感染経路の遮断が重要となります。つまり病原菌を感受性のある生体に伝播・接触させないことが必要なのです。(後述)。


数年前、入浴介護従事者200人(看護婦・保健婦30%以上含む)を対象に「不安定な感染症」に関するアンケート調査を行ないました。対象者の55%以上が3年以上入浴介護に従事し、なかには10年以上の経験を持つ熟練者もいましたが、全体の71.4%の方が感染に対する不安を抱いてることが分かりました。どのような感染症に対して不安感を抱いているかという質問について、MRSAが33.9%、疥癬が28.3%、ウィルス性肝炎が24.9%、その他にエイズ、結核、性感染症、インフルエンザなどの回答がありました。入浴介護を介した感染の経験の有無を尋ねたところ、介護者本人の感染経験は3.5%、友人・知人・家族を含む介護者の感染経験は6.9%、入浴対象者とその家族では15.4%に感染経験があると答えました。その背景となる対象者の健康状態に関しては、褥瘡保有者が35.5%、MRSA保菌者が21.3%、肝炎のキャリアーが15.1%、疥癬感染者が14%、梅毒ワッセルマン反応陽性者が13.2%でした。これらの感染症すべてが他への感染の可能性があるとはいえませんが、介護従事者の不安を解消し、より良い入浴サービスを実施するためにも、感染対策の正しい知識を持つ重要性が指摘されました。


在宅あるいは施設における入浴は、急性期患者のいる市中病院とは異なり、極度の易感染宿主に対するような予防策を講じる必要はありません。しかしながら不特定多数の入浴者を対象とすることを考慮した、きめの細かい対応が望まれます。 ここで入浴における主たる感染対策について述べてみましょう。


MRSA保菌者や褥瘡保有者で発症もしくは多量の排菌をしている場合は、入浴を控えることが望ましいと思われますが、通常は家族に対し事情を説明し、後処理に十分な時間がとれるよう、原則として1日の最後に入浴させ、丁寧に対応します。また必要ならマスク・手袋・ガウンなどを着用します。このときの対象者への精神的配慮も不可欠とされます。褥瘡に関しては入浴による治癒効果が期待できるので、できる限り入浴可としますが、軽度の褥瘡は開放のままで、重度の褥瘡部位は防水フィルムで覆って入浴させます。介護者のユニフォームや浴槽は十分な洗浄とともに、熱水あるいは消毒薬(次亜塩素酸ナトリウム)で浸漬・清拭を行なうことが勧められます。

疥癬を持つ場合は、健常な介護者や他の利用者への感染を防ぐためにも、十分な対策をとる必要があります。入浴介護にはできるだけ肌を露出することがないよう、衣類等で被います。ヒゼンダニは熱に弱いので、利用者宅で熱湯を用意してもらい、ムトウハップ入浴の後、浴槽や物品にかけ回すことが勧められます。手洗いにはトリクロサン製剤での洗浄の後、オイラックス軟膏を塗ります。疥癬の感染には、ピンポン感染を防ぐため家族・従事者等に対する治療は同時に行なうことが勧められます。


対象者がウイルス性肝炎の場合は、血液や体液に注意を払いましょう。褥瘡は密閉するなど、血液や体液との接触がないようにし、長めの手袋を着用することも勧められます。消毒には次亜塩素酸ナトリウムを用います。


レジオネラ感染症(肺炎等)には、特に施設等における24時間連続循環入浴風呂や、訪問入浴における家庭の24時間風呂に注意が必要です。浴槽水の長時間連続使用を避け、こまめに交換するようにしましょう。長時間使用で塩素消毒効果が減弱するとレジオネラ菌の繁殖が大になります。健常者についても、家庭の循環式風呂・ジャグジーの飛沫やエアロゾルを飲み込んだり吸込んだりしないようにすることも肝要です。これは温泉についても同様のことが言えます。


以上のように、いずれの場合においても過度の不安感を抱かず、正確な知識を基にした的確な手洗い・消毒等の感染予防対策を基本に、利用者に対して十分な配慮を行なうことが大切です。また入浴介護従事者側も自身の健康を守り、安心して安全な入浴介護サービスを遂行することが期待されます。


■先生のプロフィール

小池 和子

茨城県立医療大学 医科学センター教授(同付属病院感染対策委員)

専門分野:感染制御学、細菌学(食中毒)、公衆衛生学

■学会活動
  • 日本公衆衛生学会評議委員・査読委員
  • 日本衛生学会評議委員
  • 日本疫学会評議委員
  • 日本細菌学会、日本環境感染学会、日本食品微生物学会、日本病院管理学会各会員感染対策関連の社会活動
  • 入浴福祉研究会理事
  • 茨城県保健・医療・福祉における健康・科学情報(感染症)の共有化モデル事業検討委員医学博士、ICD制度協議会認定ICD
小池 和子