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感染予防教室

●あの先生この先生の専門家コラム

第3回: 『痛いのも辛いが、かゆいのも辛い』
さいとう皮膚科クリニック 院長 高齢者皮膚管理研究会 代表

これは、私が在宅や施設への訪問診療の際、よく耳にするお年寄りからの言葉です。 かゆみから夜も眠れず昼と夜が逆転してしまい、介護する方々の社会性まで低下させてしまう事もあります。 一口にかゆみと言っても多種多様な皮膚疾患がありますが、今回はテーマである『疥癬』について簡単に述べます。


疥癬とはダニの一種である疥癬虫(ヒゼンダニ)による皮膚感染症で直接的な接触により感染します。交尾した雌成虫が、角質層にトンネルを掘りながら進み産卵し、感染から約4〜6週間後に、皮膚に発疹として症状が現れます。昭和40年代、50年代に流行のピークがありましたが、再びその流行が拡大傾向にあります。過去のピークは主に性感染症としての流行でしたが、現在は高齢者の方々を中心とした流行が拡大しています。介護保険の施行や各種介護施設・サービスの増加により、高齢者の方々同士が接触する機会が増えた事が、大きな要因と思われます。また、入浴の機会が限られてくる高齢者の方は、一般の健康な方と比べて感染リスクが増えてしまう事も要因の一つでしょう。毎日入浴をする一般の健康な方は、感染の媒介となる事はあっても、そう簡単に発症はしません。治療は外用剤が中心となりますが、塗布する軟膏の種類は医師により様々です。


疥癬を患った方はかゆみに苦しまされてしまうのですが、かゆみだけで言えば他の皮膚疾患も同様です。では、なぜ疥癬が、こうして取り上げられるのでしょうか?その理由は疥癬が抱える社会的問題にあると言えるでしょう。他の高齢者の方への感染、介護している家族への感染、介護職員の方々への感染、疥癬が感染症である以上、感染拡大のリスクは常にありますが、その感染拡大への恐怖感が必要以上に過剰になってしまうのです。 それら恐怖感が、介護サービスの利用中止や、家族への多大な精神的ダメージ、介護従事者の方々達の雇用問題などに繋がってしまうのです。これでは、たかがダニによって介護保険制度も崩壊しかねません


患者さんを隔離し、体に触れる場合は防護服を着て、強力な殺虫剤を噴霧して・・・疥癬とはそんなに恐ろしい恐怖の病気なのでしょうか?答えはノーです。介護する方は、接触後すぐに肘から先の前腕部・指を普通の石鹸と大量の流水で洗い流せば、素手で接しても問題ありません。またヒゼンダニは50℃以上10分間以上の加熱で死滅し、皮膚から離れると通常2〜3時間、長くとも2日以内に死滅します。従ってリネンなどは50℃以上の湯に10分以上浸せば通常通りに洗濯しても問題ありませんし、マットレスや寝具類などは2日間天日干しをすれば問題ありません。十分な加熱が得られるなら乾燥機・布団乾燥機も有効でしょう。 但し、感染力の非常に強いノルウェー疥癬については例外です。


ポイントは確実な診断、確実な治療、しっかりした衛生管理・防疫対策です。『疥癬は診断が一番易しく、一番難しい病気だ』と言う言葉もある位ですから、まず、皮膚科専門医の診察を受ける事が大切です。誤った外用剤の使用は、症状の悪化をもたらします。そして治療には外用剤の全身塗布や入浴が必要です。家庭での治療の場合は介護者ら家族の事情や介護サービス事業者らとの調整が必要です。また施設では配置人員の事情や、他の利用者らの感染状況なども考慮しなければなりません。ピンポン感染と言って、家庭でも施設でも1人治癒しても他に感染者がいれば、再感染してしまうからです。単純に皮膚科を受診し薬を貰うだけで無く、個々のケースや施設の諸事情に合わせた治療計画と、その後の衛生管理・防疫対策までを十分に、医師に指導して貰う事が重要です。


短い文面で、疥癬の全てを伝える事は難しい事です。大切な事は疥癬に対する正しい知識を得る事、そして信頼できる専門医を受診する事です。疥癬は治療すれば必ず完治します。しかし、そのような疾患にも関わらず再び流行拡大をしている背景には、不確実な診断、不確実な治療、不適切な衛生管理・防疫対策が挙げられるでしょう。しっかりとした対応が、感染拡大を防ぎ、疥癬の撲滅に繋がるでしょう。


余談ですが現在、『高齢者皮膚管理研究会』と言う研究会を発足させ活動しています。高齢者医療のレベルアップ、ネットワーク作り、情報交換などを目的に医師・看護婦・ケアマネージャー・ヘルパー・介護福祉士・相談員・施設管理者の方々などと、施設や地域を越えカンファレンスや講演会などを開催させて頂いております。疥癬専門の研究会ではありませんが、やはりテーマに疥癬を据える事も少なくありません。開業医として、外来や訪問診療を行いながらの研究会運営は、正直なところ負担も大きいのですが、疥癬の正しい知識を身に付けて頂いた施設や事業所などで、『疥癬はサービス利用中止』では無く『サービス利用可』として対応して頂ける姿勢に、やはり自分自身のライフワークとしての充実感を感じます。


疥癬は被害者にもなり加害者ともなり得る疾患です。正しい知識を持って感染拡大の防止と、根絶を目指しましょう。

■先生のプロフィール
さいとう皮膚科クリニック 院長 高齢者皮膚管理研究会 代表
■1982年

北里大学医学部卒業

  • 元千葉大学医学部皮膚科文部教官
  • 元昭和大学藤が丘病院形成外科教官
  • 元国保旭中央病院皮膚科部長
■1998年7月

さいとう皮膚科クリニック開業

  • 日本皮膚科学会認定専門医
■2000年10月

高齢者皮膚管理研究会 発足

■2002年4月

社団法人 習志野市医師会

さいとう皮膚科クリニック 院長