先月(8月)、宮崎県と宮城県で、あまり聞き慣れない“日本紅斑熱”という感染症の発生に関する報道記事が目に入りました。いずれも今年7月に感染しており、宮崎県の場合、70代の女性が、宮崎市内の山林を家族と散策している時に、本症に感染して死亡しています。また、宮城県では、男性(35歳)が仙台市内の梅田川(河川敷)を散歩中に感染し、現在は回復しているようです。
日本紅斑熱(紅斑熱群リケッチャ症ともいう)は、紅斑熱群リケッチャの一種であるRickettsia japonica によって起こされるダニ媒介性リケッチャ症の一つです。病原体(リケッチャ)は、0.3〜0.5×0.8〜2μmの球桿菌で、グラム染色陰性の偏性細胞寄生性(生きた動物細胞の中でないと生息、増殖できない)の細菌です。通常、本リケッチャを保菌する節足動物(マダニ)を介して、人の体内に入り、発疹や発熱性の疾患を引き起こします。日本紅斑熱の場合、キチマダニやヤマトマダニなどに咬まれて感染、発症します。
日本紅斑熱の発症(症状)ですが、上記リケッチャが体内に侵入後、2〜10日の潜伏期を経て発症し、原因不明の発熱が2〜3日続き、頭痛や悪寒、だるさ、関節痛、筋肉痛、手足のしびれ等の症状が出ます。診断や治療(抗菌薬の投与など)が遅れたりすると、重篤な症状になり、上記女性患者のように(稀に)多臓器不全を起こして死亡することもあります。体の抵抗力(免疫力)が衰えている高齢者は、とくに気をつける必要があります。
日本紅斑熱は、その発症初期の症状が、ツツガムシ病とよく似ていますが、ツツガムシ病と異なる特徴(40℃に近い高熱や全身の発疹、刺し口の状況など)から、両者を見分ける(鑑別する)ことが可能です。
日本紅斑熱の国内発生ですが、夏から秋にかけてよく発生し、国への報告数を見る限り、この十数年間に、年間15人前後から100人近くに上昇しており、その発生は(年を追って)増加する傾向にあります。
この日本紅斑熱を媒介するマダニですが、国内の温暖な地域の野山や河川敷、草むら等に生息しています。住宅内で生息(繁殖)するイエダニやペット(犬、猫など)に寄生するダニは、通常、上記リケッチャを保菌していません。十年前まで、日本紅斑熱の発生は南九州から中国、四国、南関東地方を中心に多く見受けられました。しかし、ここ1、2年、東北地方(青森県や宮城県など)まで感染の発生が報告されるようになり、(地球温暖化で)マダニが国内全域に分布、生息するようになったのか、その感染は広がる一方です。
この日本紅斑熱の他、ダニ媒介性リケッチャ症として、ツツガムシ病が、(国への報告数を見る限り)国内で毎年400人〜500人発生して、毎年数人が死亡しています。また、この専門コラム(第37回)で紹介した野兎病も、野兎病菌を保菌した野ウサギとの接触だけでなく、野兎病菌を保菌したマダニによっても(人を刺咬して)感染、発症しています。
ここ数年、住環境(その周辺を含む)に生息する動物(飼育を含む)や昆虫などによって、感染症にかかる人達(とくに高齢者)の発生(あるいは死亡例)に関する報道記事が多くなっています。上記感染症の発生に関する報道は、まだ国内で発生事例が少ないため、新聞やインターネーットなどで殆ど見受けられません。
しかし、現在、このような日本紅斑熱やツツガムシ病、野兎病などの動物由来の感染症にかかる人が次第に多くなっていること、これに効くワクチンもないことを十分に認識しておく必要があります。日本紅斑熱は、感染症法で4類感染症に定められ、診断した医師は、直ちに保健所に届け出ることが義務づけられています。
このような感染症(とくに昆虫を介した感染症)にかからないよう、福祉介護施設でも以下に記す感染予防対策を講じる必要があります。
また、上記4つの対策に加え、このような感染症に(施設の入所者や職員が)感染しても、早く気づくよう、普段から、彼等の日常の生活や健康状態にも十分に気を配る必要があります。とくに高齢者が外出(散策)した後で、上記のような症状が認められる時は、出来るだけ早く専門医による診断と治療を受けたほうが無難です。
健康管理や衛生管理、衛生慣行、環境衛生に心がけて感染症の発生予防に努め、高齢者を感染症(食中毒を含む)から守ってあげて下さい。
(2008.9.1)