HOME > 感染予防教室 > Dr.ヨコヤマの専門家コラム > 第36回:『若い世代で感染が増えている伝染性単核球症とその予防について』

感染予防教室

●Dr.ヨコヤマの専門家コラム

■バックナンバー

第36回:『若い世代で感染が増えている伝染性単核球症とその予防について

近年、国内で麻疹(はしか)や百日せきだけでなく、伝染性単核球症(infectious mononucleosis)の感染が(とくに若い男女の間で)年を追って増加しています。この感染症はウィルスの一種、エプスタイン・バーウィルス(Epstein-Barr virus:EBウィルス)に感染して発症し、キス病(Kissing disease)とも称されています。伝染性単核球症は、初期症状が風邪やインフルエンザに似ているため、ちょっとした風邪や軽いインフルエンザと思い込んでしまう。発症後2〜3週間経っても高熱やリンパ節の痛みが続くため、慌てて病院等医療機関へ駆け込み、伝染性単核球症と診断され、治療を受ける患者(高校生、大学生が多い)が増えています。

この伝染性単核球症については、まだ国内での発症頻度が低く、発生事例報告も少ないためか、テレビや新聞等にもあまり取り上げられず、私達の間で意外に知られていません。とは言え、10歳までの幼少期にEBウィルスに感染しなかった10代の若い男女が、初めてEBウィルスに感染した場合、要注意です。

伝染性単核球症は、キスをする程度の接触行為だけで感染し、発症すると発熱(38℃以上)や咽頭炎(喉の痛み)、頸部リンパ節の腫れなどの症状を引き起こします。さらに疲労感(疲れやだるさ)や鬱(うつ)症状を伴う場合もあるため、慢性疲労症候群と診断されることもあります。早期に適切な治療がされず、肝臓や脾臓、リンパ節が腫れ、重症化すると、急性肝炎や肺炎、悪性腫瘍(バーキット-リンパ腫や上咽頭ガンなど)などを引き起こし、生命を失うことも稀にあります。ここ数年、この感染症が若い人達に感染、拡大(流行)しつつあり、医療関係者の間で懸念され、その予防が急務となっています。

ところで、EBウィルスは、人に感染すると鼻咽頭部の細胞や免疫系のB細胞で増殖し、血液中の細胞や唾液中に存在します。そして、上記したようにキス(接吻)などの接触行為により、唾液中に存在するウィルスが経口感染して伝染性単核球症を発症します。

EBウィルスは、ヘルペスウィルスの仲間に属し、世界中に広く存在しています。日本でも、3歳頃までに約8割の幼児が感染し、思春期までに9割以上の子供が感染しますが、殆どの場合、無症状あるいは軽い風邪や咽頭炎、扁桃炎になる程度の軽症状で治ります。また、思春期になるまで一度感染すると抗体が出来て生涯免疫を持つため、再感染しません。しかし、10代後半になって、このEBウィルスに初めて感染すると、その半数近くが伝染性単核球症になると言われています。

伝染性単核球症は、発症後38℃以上の発熱や喉の痛み、首の周りを中心にリンパ節が腫れるなどの症状が数週間続き、通常、治るまで数ヶ月かかります。しかし、早期の受診と適切な治療が行われないと(上記したように)症状が進行し、肝脾腫や肺炎などを併発するおそれがあります。感染防御する生体免疫系が侵され、多臓器不全や悪性腫瘍などを引き起こし、数年内に死亡することもあります。

このような伝染性単核球症の患者(とくに若い世代)が発生、増加する背景として、5歳未満の乳幼児期に、何らかの理由(食生活習慣の変化で市販離乳食の利用など)で、EBウィルスに感染する機会が無かった若い人達が増えていることや、伝染性単核球症に関する知識の欠如や関心の低下などが一因になっていると思われます。今のところ、この感染症を防ぐ有効な手段(方法)は見当たりません。

従いまして、思春期を過ぎた10代の若い男女は、上記EBウィルスに感染した経験の有無に関係なく、伝染性単核球症と疑われる症状が出て、不安になった時は、病院などの医療機関に行くことを勧めます。医師の診察による早期発見と適切な治療を受け、症状の進行(重症化)や感染の拡大を防いで下さい。

伝染性単核球症は、上記したようにキス行為等で唾液を介して(人から人へと)簡単に感染するため、自分の周りに居るパートナーや家族、仲間が、この病気に感染しないよう、キスは(出来るだけ)頬(ほお)にする程度に止める。また、食事中に食べ物の口移しや飲み物の回し飲み、箸やフォーク、ナプキン、手拭き布(ハンカチなど)の共用などは、出来るだけ避けたほうが無難です。

そして、上記感染症に関する知識(発生状況や感染経路、症状など)を正しく習得して、栄養バランスがとれた食事や十分な睡眠と休養をとり、EBウィルスなどの病原体に感染しても、それに負けない抵抗力(免疫力)を普段から身に付けておく必要があります。

その他、日常生活の中で、口腔ケアや手指衛生、消毒(除菌)も不可欠で、これらの衛生対策を徹底することで、各自の衛生意識だけでなく、上記感染症に対する関心も高まり、その感染予防に目を向け、必要な衛生対策を自主的かつ積極的に講じるようになります。日常のうがい(洗口)や手洗い、消毒などの衛生慣行や衛生管理を励行して、上記感染症にかからないよう十分に気をつけて下さい。

(2008.3.24)