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第32回:『感染予防に手洗い(手指消毒を含む)を、その重要性(役割)について』

朝晩がめっきり冷え込み、秋から冬の季節に入ろうとしています。これからの寒い時期は、空気が乾燥し、肌荒れが生じやすくなり、乾いた皮膚がかゆくなって引っ掻いたりします。この引っ掻き傷や、ちょっとした切り傷、熱傷(やけど)などを(適切な治療をしないまま)放置して、傷口部が化膿してひどい症状になって、大騒ぎすることがあります。このようなかゆみや傷口の化膿は、微生物(細菌やウイルスなど)の感染が原因となって起きています。

人(成人)の皮膚は、おおよそ畳一枚分の広さ(面積)があり、個人差がありますが、皮膚の表面部に一過性の細菌〔黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)や緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、アシネトバクター属菌(Acinetobacter spp.)など〕が主として付着しています。また、皮膚の深層部や毛嚢、皮脂腺などには、細菌〔プロピオニルバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes )や表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidisS.homniisなどのcoagulase陰性菌)、ミクロコッカス属菌(Micrococcus spp.)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)など〕や、真菌(Malasseziaなど)などの常在菌が住み着いています。これらの常在菌は、上記皮膚に付着してくる一過性菌を排除する役割も果たしています。これらの一過性細菌や常在菌は、健康状態や肌の手入などを良くして、菌が体内に入り込まないよう注意さえしておれば、人に何の悪さもせず、じっと皮膚に付着、常在しています。

しかし、外傷や熱傷(やけど)、床ずれ(褥瘡)などをした時、稀に前記細菌と病原性の弱い(または強い)グラム陰性細菌などが混合感染の形で加わってきて、病態が進行して重い症状(化膿性疾患や皮膚組織の壊死、肺炎などの呼吸器系疾患など)を引き起こすことがあります。また、上記したように、皮膚が乾燥しやすい人(とくにお年寄り)は、皮膚がかゆくなると、つい我慢出来ず(あるいは無意識)に掻き壊すなどして、自分の手指に付着(あるいは常在)している黄色ブドウ球菌やストレプトコッカス・ピオゲネスなどの比較的病原性の強い細菌を、引っ掻いた傷口に感染させて、化膿性の疾患(丹毒や蜂窩織炎など)を起こしてしまいます。

とくにお年寄りに多い褥瘡は、皮膚が圧迫されて皮膚組織が壊死する病気ですが、用便後の手洗いなどが不十分であると、患部に糞便中に存在する細菌〔大腸菌などのグラム陰性桿菌や黄色ブドウ球菌(稀にMRSAも検出される)、バクテロイデス腸球菌など〕が汚染(混合感染)、繁殖して化膿し、症状を悪化させることがあります。褥瘡の治療には抗菌薬(抗生物質など)が使用されますが、この抗菌薬に耐性を有した黄色ブドウ球菌(MRSA)や緑膿菌(MDRP)、カンジダなどが稀に出現することがあります。この耐性菌は、皮膚に、殆ど炎症を起こさず、そのまま患部に居ついて、施設内感染の感染源となりやすく、要注意です。

高齢者が入所(通所)する福祉介護施設でも、介護者や要介護者の手指に付着した一過性の細菌(耐性菌や糞便菌を含む)や常在菌によって、上記感染症にかからないよう、施設内で二次汚染の形で蔓延(拡散)させないよう、十分に気を付ける必要があります。

そのために、手洗い(必要に応じて手指消毒)の励行を心がけて、自分の手指に付着した菌(とくに一過性の菌)を、殺菌、除去し、手指を清潔に保って、菌が他へ拡散して二次汚染しないよう十分に注意する必要があります。

このように、屋内や屋外周辺に生息する生物によって、健康被害(食中毒や感染症など)を被らないよう、室内外の環境衛生管理にも十分注意する必要があります。

手指の衛生対策として、米国CDCは、手指衛生を重視して「医療現場における手指衛生のためのガイドライン(2002)」の中で、「従来の石鹸と流水による手洗い」を「擦式消毒用アルコール製剤による手洗い」に改めています。わが国も、2005年の医療法の改正で、同法第20条第3号の「滅菌手洗い」が「清潔な手洗い」に変更され、滅菌水でなく、衛生確保された水道水での手洗い設備でもよいことになりました。水道水は、水道法で水質管理がきちんと行われ、安価で、必要な時にいくらでも使うことが出来ます。しかし、自施設で、水道水の塩素濃度を定期的に調査(確認)して使用することが望まれます。

現在、医療施設では、院内感染の蔓延(拡散)を防ぐため、水道水による手洗いと速乾性手指消毒薬による手指消毒を(感染リスクに応じて)うまく使い分けて手指衛生を守っているように見受けられます。

従って、福祉介護等の施設でも、食中毒や感染症が多種多様に発生する現状や、上記感染の形態(様式)も十分に考慮して、施設内感染の予防対策で、とくに介護従事者や要介護者を対象にした手指衛生の徹底が、最も基本的に重要な遵守事項として求められます。

とは言え、福祉介護等の現場は、感染症対策の取り組みが充実している医療現場と異なり、これに携わる職員の数や感染症対策に充当する予算が少なく、業務が多忙(煩雑さ)なことなどがあって、感染症対策まで十分に手が回らない施設が多く見受けられます。手指衛生や消毒法に関する必要な知識や技術の習得不足や認識不足などから衛生意識が低いと、コンプライアンスの改善を図ることも困難です。それだけに、この分野に詳しい専門家や信頼できる消毒剤メーカなどの協力を得ながら、施設職員(関係者を含む)を対象にして、手指衛生技術や消毒法を含めた感染症対策の取り組みに関する教育(実技)研修の実施が必要と思われます。手洗いや消毒に関する実技研修は、かぜやインフルエンザ、食中毒などの発生(流行)時に実施するだけでなく、年に1〜2回、定期的に行われることが望まれます。

上記手指衛生を含めた実技研修の実施で、職員の衛生意識を高め、手洗い(必要に応じて手指消毒)の励行と、手指が触れる着衣・着具・使用物品等の衛生管理の推進、周知徹底を図る。そして、食品衛生や環境衛生、健康管理にも十分気を配ることによって、施設の厨房や食堂、浴室、シャワー室、洗面場、トイレ、ベッドの周辺から耐性の大腸菌や黄色ブドウ球菌、緑膿菌などが検出されることも無くなると筆者は信じています。

(2007.11.19)