HOME > 感染予防教室 > Dr.ヨコヤマの専門家コラム > 第26回:『改正医療法で義務づけられた院内感染対策の取り組みについて』

感染予防教室

●Dr.ヨコヤマの専門家コラム

■バックナンバー

第26回:『改正医療法で義務づけられた院内感染対策の取り組みについて』

今年4月に改正医療法が施行され、国内の病院等医療施設に医療安全確保が義務づけられ、300床未満の中小医療施設(病院、診療所)も、院内感染制御体制の整備が必須となりました。

医療施設の管理者は、前記院内感染制御体制を整備するため、指針の策定や委員会の開催(無床診療所は規定なし)、従業者に対する研修の実施、院内感染発生状況の報告等が義務づけられました。すなわち、国が提示した「中小病院/診療所を対象にした医療関連感染制御指針」や「改正医療法・感染症法を考慮した院内感染防止ガイドライン」を参考にして、自施設の状況に応じた院内感染予防指針や日常の感染制御業務手順書を作成し、従業者に周知徹底する。そのため、管理者(院長)と各専門職が積極的に感染制御に関わる感染制御委員会(ICC)や感染制御チーム(ICT)を作り、ICCとICTが中心となって、全ての従業者に対して組織的な対応と教育・啓蒙活動を行う。また、従業者を対象にした研修を定期的に開催する。

さらに、院内感染など感染症の発生状況やその改善方策等に関する報告等が出来る方法(手順)を定めておく。そして、特定機能病院と臨床研修病院に「部門の設置」が、また臨床研修病院に「担当者の配置」が必要になりました。なお、特定機能病院については、「担当者の配置」が既に2003年11月に義務づけられています。

この法改正で、院内感染対策で取り組む内容(実施項目)が科学的根拠や重要度に応じてランク付けされ、小規模な医療施設でも効果ある感染防止対策が取り組めるようになりました。この取り組みにより、国内の全ての医療施設〔無床診療所(歯科診療所など)や助産所を含む〕で、現場に合った適切な院内感染対策が感染制御業務手順書に基づいて組織的対応で自主的に推進され、院内感染の発生(あるいは拡散)が(今より)少なくなり、低減することが期待されます。

このような感染制御体制の整備は、集団食中毒や集団感染が発生する可能性がある福祉(介護)施設でも不可欠になっています。とくに介護老人保健施設は、体の抵抗力(免疫力)が低下している高齢者が入所し、食中毒や感染症が起きやすくなっています。

ここ7年間をみても、国内各地の福祉(介護)施設で、(ここ半年余り散発しているノロウイルスによる感染症を別にして)、筆者が購読する新聞だけを見ても、下表に示す種々の感染症の発生報告や、それに関連した記事が大きく掲載されています。

報道年月 感染症の発生内容
2000. 6 茨城県の福祉施設で、レジオネラ属菌による集団感染で45人が発症し、3人が死亡する。
2002. 8 栃木県の病院付属老人保健施設で、病原性大腸菌O157による集団食中毒で9人が死亡する。
2003. 1 ・長野県の特別養護老人施設で、インフルエンザにより7人が死亡する。
・滋賀県の特別養護老人施設で、インフルエンザにより1人が死亡する。
2003. 3 青森県の老人ホームで、14人がサルモネラによる食中毒を起こす。
2004. 3 茨城県の特別養護老人施設で、集団発熱、肺炎症状で男女2人が死亡する。
2004. 6 京都府の老人保健施設で、18人が結核に感染し、入所者4人が発症する。
2005. 6 北海道の特別養護老人施設で、入所者ら24人が病原性大腸菌O157に集団感染し、4人が死亡する。
2005.10 ・香川県K町の老人ホームで、病原性大腸菌O157による集団感染があり、10人が入院して4人が死亡する。
・香川県M市の特別養護老人施設で、病原性大腸菌O157による集団感染があり、2人が死亡する。
2005.11 大阪府T市の児童養護施設で、病原性大腸菌O157による集団感染で児童13人が発症し、3歳の男児が死亡する。
2006.11 院内感染菌であるクロストリジウム・ディフィシルの変異株を国内で初確認する(中部地方の女性が感染)、3年ほど前から北米の病院や高齢者施設で広がる。

感染症の発生は、他の新聞やテレビ等でも別の発生事例がいろいろと報道されており、未公表のものを加えると、もっと多くの感染症が国内各地の介護老人保健施設で発生しているのではないかと推測されます。

上記感染制御体制の整備(施設内感染対策の充実)は、医療施設以外の介護老人保健施設や訪問看護ステーション等まで義務づけられていません。しかし、ここ数年、前記介護老人保健施設が増加の一途をたどり、施設内で感染症が(今以上に)多く発生することが十分懸念され、介護現場でも、医療現場に準じた感染症対策が組織的な対応で取り組まれることが望まれます。 自施設で、今まで大規模な食中毒や感染症が発生していないからと、感染症対策の取り組みを軽視していると大変なことになります。ちょっとした油断や不注意で食中毒や感染症が集団発生し、その対応に問題や不備などがあると、行政から厳しい指導を受ける羽目になります。さらに、施設を利用(入所、通所)する人達から不信感を抱かれ、経営リスクを招くことにもなりかねません。

それだけに、今回の改正医療法に関心を持って、国から提示された上記指針やガイドラインを参考にして、施設が一体となって自施設の状況に合った適切な感染制御体制(施設内感染予防指針や感染症(食中毒を含む)対策実施マニュアルの作成、感染症対策チームの設置と活動、施設の環境衛生管理の実施など)の整備を図ることが望まれます。

施設内で発生する集団感染は、(殆どの場合)空気感染や飛沫感染、接触感染が主な感染経路となって介護従事者や要介護者を介して起きています。衛生慣行(手洗いや消毒の励行など)や環境衛生管理を基本とした日頃の衛生意識の高揚と啓蒙を重視して、感染予防対策の周知徹底を図り、常に良質の介護サービスが安全なケア環境の中で提供できるようにして下さい。

(2007.05.17)