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第24回:『クロストリジウム属菌による健康被害(感染症や食中毒など)の発生とその予防について(その1)』

昨年2月に、国内で気腫疽症という(世間にあまり知られていない)感染症に罹患して、千葉県の医療施設に入院した50歳代の男性が今年2月に死亡しました。気腫疽症は、主として牛や羊などの動物に起こる病気で、家畜伝染病予防法で監視伝染病(届出伝染病)に指定されています。人には、本来、発症しない病気とされていたにもかかわらず、上記男性に感染し、世界で初めて人への感染死亡事例として新聞等で報道されました。

気腫疽症は、クロストリジウムに属する気腫疽菌(Clostridium chauvoei、ショーボ菌とも称される)という細菌によって起こる感染症で、上記男性の場合、肺組織から気腫疽菌が検出され、肺の筋肉が壊死していることが判明しています。土木作業中に右胸を怪我して肋骨にひびが入り、そこから菌が侵入し、気腫疽を発症したようです。

クロストリジウム属の菌はグラム陽性の桿状細菌で、人や動物に対して組織毒や神経毒となる外毒素や組織破壊酵素を産生し、食中毒や腸炎、ガス壊疽、破傷風などの疾患を起こします。本菌は偏性嫌気性で、生育(増殖)に酸素を必要としません。通常、土壌の中や動物の腸内などで生息していますが、酸素が存在するなど生存環境が厳しく、増殖条件が悪くなると、芽胞を作って休眠状態で生残します。この芽胞は耐久性が大で、加熱(100℃程度)や乾燥にも強く、アルコールなどの消毒剤や、紫外線や放射線の照射、抗菌剤(抗生物質など)にも抵抗性を示して簡単に死滅しません。 従って、食中毒や感染症の発生(拡散)防止対策を推進する食品の製造(加工)施設や病院等の医療施設、介護施設等で、クロストリジウム属菌は、他の食中毒菌や感染症起因菌と共に、要注意微生物の一つになっています。

人に食中毒や感染症を引き起こす代表的なクロストリジウム属菌として、ボツリヌス菌(C.botulinum)やウェルシュ菌(C.perfringens)、ガス壊疽菌群(C.novyi、C.septicumなど)、破傷風菌(C.tetani)、クロストリジウム・ディフィシレ(C.difficile)などが知られています。ボツリヌス菌は、致死率が高い、毒性が強い食中毒起因菌です。土壌中などの自然環境に存在し、ボツリヌス毒素(血清学的特異性でA、B、C、D、E、F型に分類され、A型,B型,E型が人に対し有毒である)を産生します。酸素が存在しない缶詰や真空パックした保存食品の内部で、菌が増殖して前記毒素を産生し、その食品を食べてボツリヌス食中毒を引き起こします。また、ボツリヌス菌(芽胞)が含まれるハチミツを乳児が食べて、腸内で定着、増殖して、乳児ボツリヌス症を発症した事例も報告されています。

次に、ウェルシュ菌は、土壌中などの自然界や、人や動物の腸の中に生息しています。クロストリジウム属の中で例外的に鞭毛を持たない細菌で、毒素産生の有無や毒素の種類よりA、B、C、D、E型に分類されます。このうちA型とC型の菌が食中毒を引き起こしています。さらに、動物や人の傷口に感染して、ガス壊疽(壊死性腸炎など)を引き起こして重篤な症状になり、治療が遅れると死亡することもあります。このウェルシュ菌や最初に記述した気腫疽菌は、クロストリジウム属のガス壊疽菌群に含まれ、同じガス壊疽菌群の仲間として、ノビイ菌やセプチック菌などが知られています。これらのガス壊疽菌群菌は、主として土壌中に存在し、動物や人の傷口などから感染して体内に入ります。皮下などの嫌気性条件下で異常に増殖し、皮下組織や筋肉が壊死、ガス(悪臭)発生するなど重篤なガス壊疽を起こします。

また、破傷風菌は、土壌中などの自然界に広く分布し、ウマなどの動物の糞の中でも生息しています。本菌は、神経毒である外毒素(テタノスパスミン)を産生し、この毒素が破傷風の原因になっています。人や動物の傷口などから感染して、発症すると、重篤な症状(嚥下困難や開口障害、全身の筋肉強直、呼吸困難など)を引き起こします。破傷風は死亡率の高い病気ですが、現在、医療設備が充実、整備された病院で早く受診、治療を受けると、治癒するケースが多くなっています。

さらにクロストリジウム・ディフィシレは、人に下痢や腸炎を起こす病原菌として(最近)注目を浴びています。本菌は人や動物の腸管内に生息する常在菌の一種で、他のクロストリジウム属菌や腸内細菌に比べ、各種抗生物質に比較的抵抗性があり、抗生物質を大量投与(抗生物質の多用)した時、本菌と拮抗する他の菌が死滅します。その結果、腸内細菌叢のバランスがくずれ、本菌が異常に増殖し、産生する毒素により、大腸粘膜表層部の壊死、びらんを病変とする腸炎が起きます。通常、下痢や腹痛などの症状が出る程度で治まりますが、前記症状が続いて出血性の大腸炎(偽膜性大腸炎)を引き起こし、死亡することもあります。ここ数年、より毒性の強い変異菌(027型)が、医療施設や福祉(介護)施設などで、下痢や腸炎を起こした入院患者や入所(通所)者等の便から検出され、重篤な症状になる発症事例が増える傾向にあり、問題になっています。

 このような状況を踏まえ、医療施設や福祉(介護)施設などでは、インフルエンザやかぜの感染予防だけでなく、上記クロストリジウム属菌による食中毒や感染症の予防も大切になっています。加齢や疲労等で体の抵抗力(免疫力)が低下している人や、治療を受けている入院患者、介護を受けているお年寄りの方などは、食中毒や感染症にかかりやすく、十分に注意する必要があります。