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第3回:『レジオネラ感染症とその予防対策について』

近年や、温泉施設福祉保養施設、一般家庭の循環式浴槽などでレジオネラ属菌による感染症が多発し、死者も出て、その防止対策が急務となっている。

レジオネラ属菌は、土壌や淡水(河川水や池水、湖沼水など)など自然界に広く分布し、ごく普通に生息する細菌である。1976年に米国のフィラデルフィアのホテルで開催された在郷軍人の集会出席者200名以上が原因不明の重症肺炎にかかり、34名が死亡する事件が起き、この菌が原因菌として世界で初めて確認され、1979年にLegionella pneumoniaeと命名された。その後世界各地から本症の事例報告が相次ぎ、日本でも、1981年にレジオネラ症発生事例が初めて報告され(感染症学雑誌55,124-128,1981)、1996年以降、24時間風呂によるレジオネラ属菌の汚染も生じて、大きな社会問題となっている。

レジオネラ症の感染経路や感染源は、空調用の冷却塔や加湿器、ネブライザー、給湯器、循環式浴槽の水の他、上水、プール水、噴水などの修景用水などのエアロゾル(細かい水滴)と言われている。このような人工的な水環境が増大し、レジオネラ属菌に新たな生育場所を与え、高頻度に生息して、本菌と人の接触する機会を招き、レジオネラ症が出現したといえる。

とくに、風呂や温泉を好む国民性を背景に、「24時間いつでも清潔なお風呂や温泉に入れ、水資源の節約が可能!」を謳った便利な循環式浴槽が登場し、それが急速に普及し、レジオネラ症の感染、発生につながっている感がある。そして、このような循環式浴槽を導入した温泉施設や福祉保養施設、病院等医療施設などで、ここ数年来、レジオネラ属菌による汚染(あるいは集団感染)事件が繰り返し生じたり、院内感染の形でレジオネラ感染による入院患者の発症や新生児が死亡するなどの事例が生じて、その予防(防止)対策がいろいろと取り組まれている。

1.病原体となるレジオネラ属菌について

レジオネラ属菌は、0.3〜0.9×2〜5μmの好気性グラム陰性桿菌で、個々の形状は大腸菌に比べてやや長く、グラム染色で赤く陰性に染まる。現在、レジオネラ症の原因菌となって最も問題になっているL.pneumoniaeを加え、レジオネラ属に属する菌種は45で、60以上の血清型が存在して、人に感染を起こすのは20種類と言われている。

レジオネラ属菌は通常の培地では発育せず、発育促進物質として微量の鉄イオンや、必須栄養素として特定のアミノ酸(L−システインなど)の他、混在する他菌の増殖を抑制する抗菌剤や抗真菌剤の添加などが必要となる。これらの要件を満たす特殊な選択培地(BCYEα寒天培地やWYOα寒天培地など)が、レジオネラ用の培地として一般に使用されている。

これらの選択培地を用いて、37℃、pH:6.9±0.1の条件で培養すると、本菌は通常の酸素のある状態で十分に発育する。しかし、細胞の増殖が非常に遅いため、肉眼的に独立したコロニー(集落)を確認するため5日以上の培養が必要となる。通常、5〜7日の培養で、平板上に辺縁明瞭な円形、凸状の、青みを帯びた灰白色の色調を呈し、特有の淡い酸臭を示す大小不同のコロニー(集落)を形成する。

レジオネラ属菌は、上記したように培地上での増殖条件は非常に限られているが、自然界の水系や湿った土壌中で、0から63℃(25〜43℃でよく増殖する)、pHも5から8.5と温度やpHが広範囲に異なる条件下で生息する。したがって、20℃以上の水が停滞しやすい人工環境中でも生息(または生残)していることは言うまでもない。その際、レジオネラ属菌は、自身で増殖する能力はなく、同じ環境水中に生息しているある種の藍藻や緑藻の細胞外代謝産物を炭素源あるいはエネルギー源として利用したり、アメーバ(Hartmanella,Acanthamoeba,Naegleriaなど10種が知られている)などの原生動物に寄生し、(食胞内で)増殖するなど、藻類やアメーバと共生関係の下で生息していることが分かっている。

とくにアメーバは、餌となる細菌などが繁殖しやすい水の流れが停滞しやすい場所(冷却塔や加湿器、貯水器など人工環境の配管及びろ過器等の繋ぎ部分あるいはろ過層など)に集まって生息する傾向がある。そのような場所はぬめりを生じ、バイオフィルムと呼ばれる強固な生物膜が形成されやすい。そのバイオフィルム中でレジオネラ属菌は、前記したアメーバに寄生して増殖し、同じバイオフィルム中で共存する藻類が代謝するアミノ酸を利用して、増殖を繰り返す。そして、冷却塔や循環ろ過装置、給湯器、加湿器等から菌を含んだエアロゾル(細かい水滴)に放出され、人が吸入し、肺胞内に入って感染する。

2.レジオネラ属菌の検出状況

人工環境水等からのレジオネラ属菌の検出は、冷却塔や24時間風呂の水からが多く、給湯水(貯湯式、循環式)や修景用水(公園の噴水など)からも時々検出されている。とくにここ数年、温泉や福祉保養センターなど大規模な循環式浴槽を有する施設における汚染が多く発生して検出率が高くなっているが、遊泳用プールや家庭用風呂は循環式を含め、そのプール水及び浴槽水、シャワー水等からレジオネラ属菌の検出はあまり認められず、両者の検出率の差は大きい。

3.レジオネラ症の特徴(主な症状など)

次に、レジオネラ症の主な症状であるが、レジオネラ属菌が発見された当初は、非常に病原性が強い菌と考えられていたが、最近では日和見感染菌の一つとして認識され、幼児や高齢者あるいは入院患者等の免疫力が低下している人が発症しやすく、健康な人は感染しても稀にしか発症しないことが分かっている。

しかし、どの程度のレジオネラ属菌を口や鼻から吸入するとレジオネラ症を発症するかは、個人差もあって、はっきりと分かっていない。さらに、レジオネラ症の集団発生は、人から人への伝播よりも、どちらかと言うと共通の感染源から複数の人が感染し、発症している場合が多い。

またレジオネラ症について、その特徴(主な症状など)を記すと、その臨床症状から肺炎型とポンティアック熱型の二つに分別される。

肺炎型は、2日から10日の潜伏期を経て、インフルエンザ様の症状が現れ、全身倦怠や易疲労感、頭痛、食欲不振、筋肉痛などの不定の初発症状を呈する。咽頭痛や鼻炎などの上気道炎症状はみられないが、発症3日以内に悪寒を伴って高熱を発する。その後、呼吸困難を生じ、低酸素血症状や、血性(または膿性)痰を伴う急性肺炎へと展開する。抗生物質による治療が適正に行われると治癒するが、適切な治療がなされないと、多臓器不全や神経症状を呈し、播種性血管内血液凝固症候群や成人呼吸窮迫症候群などを起こして、発病から7日間に死亡する例が多い。肺炎型のレジオネラ症に感染する患者は50代から70代に多く、男性の罹患率が高いとされている。

一方、ポンティアック熱型は、平均38時間の潜伏期を経て、悪寒や筋肉痛、倦怠感、頭痛などの症状を呈し、発症後6〜12時間以内に悪寒を伴った発熱が生じる。主な症状は発熱で、上気道炎症の他、胸部X線で胸水の貯溜がみられることがあるが、肺炎像はみられない。このようにポンティアック熱型は軽症で、発熱だけの軽度の風邪症状で止まり、多くの患者が5日以内に無治療で自然治癒し、死亡事例は報告されていない。

4.レジオネラ症の治療法

レジオネラ症に罹患した場合、直ぐに病院等医療施設で診察を受け、肺炎型とポンティアック熱型のどちらであるかを知って、適切な治療をしてもらう必要がある。現在、マクロライド系を中心とする抗生物質の使用(エリスロマイシンとリファンピシンの併用など)による治療が最も効果的とされている。マクロライド系としてエリスロマイシン以外にスピラマイシンも有効性があると報告されている。

5.レジオネラ感染の予防対策

そこで、このようなレジオネラ感染の予防対策が重要になるが、その予防対策の取り組み内容として、国(厚生労働省)が、循環温泉施設で発生するレジオネラ感染症に対して、11項目にわたる対策を示し、その実施によって感染予防を図るよう、都道府県各自治体に通達している。国が示した予防対策が、他の感染対策現場でも参考になると思われるので、その実施内容を以下に列記する。

  • 原湯貯湯槽を60℃以上に保つ。
  • 循環式浴槽のろ過装置は週1回以上逆洗し、配管も消毒する。
  • 消毒用塩素は浴槽中の遊離残留塩素濃度を0.2〜0.4mg/Lに保つ。
  • 週に1回以上定期的に換水して浴槽を消毒、清掃する。
  • 管理記録を3年以上保存する。
  • 塩素が効かない泉質のときは、オゾンか紫外線等の他の殺菌方法を用いる。
  • 循環式浴槽水をシャワー、打たせ湯等に使用しない。
  • 気胞ジェットなどエアロゾルを発生させる器具を使用しない。
  • 浴槽の全換水を行うときは、塩素剤による洗浄、消毒を行った後、浴槽の清掃を実施する。
  • 浴槽内部、ろ過器等の毛髪、垢およびバイオフィルムの有無を定期的に点検し、除去する。
  • レジオネラ属菌の汚染の有無を定期的に検査する。

そして、上記11)のレジオネラ属菌の定期検査に関して、その検査依頼は、保健所または地方衛生研究所等が窓口になって、地方衛生研究所や国に登録している法人及び民間の試験検査機関で行えるようになっている。また、上記公的試験検査機関に自ら搬入、依頼しなくても、レジオネラ属菌の検査が簡単に依頼でき、精度の高い結果が得られる方法(市販のレジオネラ属菌検査キットの利用など)もあり、自主検査の手段として前記検査キットを有効活用することもよいと思われる。

その他、レジオネラ対策として都道府県等の衛生主管部局は、レジオネラ症発生防止のための啓発活動・指導等を行うと共に、先に記述したようにレジオネラ症の集団発生が生じた時(同一場所で同時期に2名以上の患者が発生した場合)は、感染原因の調査や感染拡大防止等に関して保健所を指導するとともに、国へ報告することになっている。

なお、レジオネラ症を起こす危険のある菌数やこれを起こさない安全な菌数の限度について、新版レジオネラ症防止指針(厚生省生活衛生局企画課監修、(財)ビル管理教育センター、1999)で、次のように記されている。レジオネラ症を予防するため、人工環境水中のレジオネラ属菌を可能な限り少なく維持することが重要であり、レジオネラ属菌が検出された場合の対応として、浴槽水やシャワー水等、人が直接エアロゾルを吸引するおそれのあるものは、その検出菌数の目標値を10CFU/100ml(検出限界)未満と定め、レジオネラ属菌が検出された場合は、直ちに清掃、洗浄、消毒等の対策を講じることと記載されている。そして、前記対策の実施後、検査をして検出菌数が検出限度以下(10CFU/100ml未満)で、検出されないことを確認することが求められている。

一方で、冷却塔などでは、この菌数目標値はより現実的なものでないという考え方から、人がエアロゾルを直接吸引する可能性が低い水環境について、100CFU/100ml以上のレジオネラ属菌が検出された場合に、直ちに菌数を減少させるための清掃、洗浄、消毒等の対策を行うことが定められている。そして、前記対策を実施した後、直接エアロゾルを吸引するおそれがある場合と同様に、検出限界以下(10CFU/100ml未満)であることを確認することを求めている。

いずれにせよ、レジオネラ属菌は、ごくありふれた菌の一つとして環境中に常在する以上、人工環境水中のレジオネラ属菌をまったく存在しない状態で維持管理すること自体、感染源が十分に解明されていない部分もあって、現状では非常に困難であり、かつコスト的にも合わないように思われる。しかし、レジオネラ属菌への対策を誤ると、人の生命を脅かす感染症を引き起こすことになりかねず、他の怖い感染症と同様に、その予防対策を積極的に行っていく必要がある。これらの感染症予防対策に関わる関係者は自己責任を持って、上記国の通知「建築物等におけるレジオネラ症防止対策について:生衛発第1679号、平成11年11月26日」や「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルについて:健衛発第95号、平成13年9月11日」及びレジオネラ症防止指針などを活用し、レジオネラ感染に対して、今、出来得る限りの対応を考え、最善の防止対策を確実に実施して、レジオネラ症の発生を極力防いでいくことが重要である。