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感染予防教室

●Dr.ヨコヤマの専門家コラム

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第1回:『施設内感染予防と環境衛生管理の役割』
■介護サービス利用のひろがり

平成4年4月からの老人訪問看護制度、また平成12年4月からスタートした介護保険制度、さらには平成15年4月からスタートした支援費制度など、高齢者・障害者を対象にした福祉制度の充実がすすめられています。

とくに高齢者では、要介護認定者が400万人に達し、介護サービスを利用する場所も、医療・福祉施設から各家庭や在宅介護サービスへと拡がっています。施設の種類も、従来の特別養護老人ホームや老人保健施設、病院の療養型病床群などに加え、有料老人ホーム、ケアハウス、グループホームが全国各地に誕生し、在宅型介護サービスの利用件数がこれからも増加する傾向にあります。

■サービス提供施設で発生する新興・再興感染症

介護サービスの利用が増える一方で、サービスを提供する医療・福祉施設でさまざまな新興・再興感染症〜MRSA腸管出血性大腸菌O−157レジオネラ結核など〜の発生事例がマスコミで報道されることがあります。こうした感染症の発生は、サービス利用に対する不安につながります。

■日和見(ひよりみ)感染症

また感染症は、まれにではありますが、身の回りのさまざまな所にいる、ふだんはそれほど害のない微生物(平素無害菌及び雑菌)からも発生します。これを日和見感染症と呼んでいます。原因となる微生物としては、口の中やのど、腸管内、皮膚などに常在している細菌や真菌、健康なときに感染したため症状のあらわれていないウイルスや原虫、寄生虫などがおもです。

とくに、体力が衰え免疫の低下で抵抗力が弱くなっている人が多い施設では、清掃や換気、除菌、消毒などの衛生対策や個人衛生(手洗い・手指消毒、うがい)をおろそかにすると、日和見感染がおこるおそれがあります。

■施設での環境衛生管理

医療・福祉施設は、施設スタッフ、患者・利用者、その他の訪問客、さらに物品類が毎日頻繁に出入りするため、微生物による汚染がおこりやすいといえます。 微生物は目には見えません。一見きれいに見える施設でもいろいろな微生物に汚染されていることが考えられます。これは人間にも同じことがいえます。 そのため、医療・福祉施設では、ふだんからマニュアルに基づいて施設環境の衛生管理を行い、感染予防に努めることが必要となります。 しかし、環境衛生管理についてのマニュアルが整備されていなかったり、マニュアルがあってもそのとおりに実施されていなければ、気づかぬうちに微生物の汚染がすすみ、食中毒を含むさまざまな感染症の発生につながります。 それだけに、医療・福祉施設では、常在細菌を含めた微生物が増殖しないよう、個人衛生(手洗い・手指消毒、うがい)や健康管理にとどまらず、施設環境の衛生管理も日常的、定期的に厳しく行うことが重要になります。 環境衛生管理には、洗浄・消毒はもちろんですが、洗浄・消毒の効果や、施設内の病原菌・平素無害菌・害虫などの調査も有効です。感染症の原因となる細菌や、細菌を運ぶねずみ、蚊、鳥、他の有害生物の分布を正確に把握することで、必要な衛生対策を講じることができます。 ただし、消毒剤や洗浄除菌剤、殺虫剤などの化学薬剤を使用する場合には、施設周辺の環境保全や安全性確保に配慮しながら、必要な時だけに限定して適正に使用することが原則です。薬剤の安易な使用や乱用は、二次的な人身事故や環境汚染を招くおそれがあるため、この点には十分に注意しましょう。

■【量的衛生管理】と【質的衛生管理】

上で述べたように、施設環境から検出される病原菌や常在菌の菌種や菌属、生菌数を把握することは、感染対策を考える上で非常に重要となります。

生菌数が施設環境の清潔さのレベルを知る【量的な衛生管理】であるとすれば、感染症(日和見感染を含む)を引き起こす病原菌や一部の常在菌の調査は、感染のリスク(危険度)を知る【質的な衛生管理】といえます。

病原菌や病原性をしめす一部常在菌の菌属や菌種を正しく知ることで、菌の汚染原因や汚染場所などを疫学的に把握でき、それに対する内外への対応措置がすみやかに行うことができます。

さらに、必要な感染対策〜例えば、感染・保菌者の隔離・治療/医療用具などの物品類や施設環境の洗浄・消毒/施設スタッフ、患者・利用者、その家族への衛生知識の啓蒙やおのおのの健康管理など〜が先行的に行われることで、施設内感染の発生を未然に防いだり、感染の拡散防止が図られるなどの有益性が大いに期待できます。

このように、衛生対策を目に見えない微生物レベルまできちんと取り組み、感染症が発生しにくい環境の中ではじめて、良質で安心できる医療・福祉サービスを提供することができるのではないでしょうか。

■感染症対策チームの編成〜利用者のQOL向上のために

これからの医療・福祉施設においては、上記のような衛生調査を、施設内感染が発生した時だけではなく、ふだんから計画的に実施することで感染のリスク(危険度)を推定する【量と質を併用した衛生管理】が求められています。

近年、施設環境の衛生管理を厳しく行い、内外からの感染経路を断つことにより、施設内感染の発生頻度が減少したり、発生を抑えられることが分かってきました。施設スタッフや患者、利用者などの個人衛生だけでなく、施設の環境衛生管理を重視する医療・福祉施設が増えています。

医療・福祉施設では、【感染症対策チーム】が編成されています。このチームのメンバーは、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師のほか、ホームヘルパー、患者・利用者の家族などです。この感染症対策チームが、施設内の環境衛生管理に関する実施手順などを決めたマニュアルを作成します。このマニュアルに基づき、施設の衛生管理状況を目で、あるいは簡易検査などでチェックし、必要に応じて清掃・洗浄や整理整頓、殺菌消毒などを実施することで感染症の発生防止を図っています。

なお、新しい感染症が発生したり、感染症対策の方法が変わったり、関連する法律が改正された時は、その都度手引きの内容は見直されます。この知識・情報の積み重ねにより、マニュアルはレベルアップします。

施設の環境衛生管理をきちんと行うことは、施設を利用する人達(とくに介護を必要とする高齢者)にとって安心で快適な環境づくりに役立ちます。そしてこの安心で快適な環境作りは、良質な医療・介護サービスの提供や、利用者のQOL(=Quality of Life;生活の質)向上につながります。

これからは、医療・福祉施設の環境衛生管理が、患者・利用者が施設内感染を心配することなく最良の治療や介護を受けられるようにするために、いっそう重要になっていくと思われます。