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感染予防教室

●Dr.ヨコヤマの専門家コラム

Dr.ヨコヤマのプロフィール
横山 浩
  • 1970年 大阪大学大学院薬学研究科博士課程修了
  • 薬学博士、薬剤師
  • ■職歴
  • 大阪府立公衆衛生研究所(薬事指導部、現食品医療品部)
  • (社)大阪府薬剤師会試験検査センター
  • サラヤ株式会社(現在)
  • ■学会・研究会活動
  • 日本薬学会
  • 日本環境感染学会
  • 日本防菌防黴学会(環境殺菌工学研究部会)
  • 環境管理技術研究会
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第63回:『犬、猫から移るカプノサイトファーガ・カニモルサス感染症、国内で死者が発生、その発生状況と感染予防対策について』

今年5月に、国内であまり聞き慣れない病名の感染症に人が移り、死者も出ているという報道が(新聞等で)目に入りました。カプノサイトファーガ・カニモルサス(Capnocytophaga canimorsus)という細菌によって起きる動物由来の感染症です。

カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症(以下「カプノサイトファーガ感染症」と記す。)と称していますが、1976年以降、欧米を中心に世界で約250人の発症患者が報告されています。国内でも2002年以降、国(国立感染症研究所)に報告されたものだけで、14人(40〜90代の男女で平均年齢は約65歳)が感染、発症し、うち6人(内訳は50代1人、60代3人、70代1人、90代1人)が死亡しています。

この報告を見る限り、発症患者は40代以上で、糖尿病や肝硬変、全身性自己免疫疾患、悪性腫瘍などの基礎疾患を持った人が多く発症しています。免疫機能が低下している高齢者や、ステロイド剤で膠原病や腎炎などの治療をしている人などは、注意する必要があります。

犬・猫Capnocytophaga canimorsusは、グラム陰性桿菌の一種で、動物(犬や猫など)の口の中に常在しています。2004〜2007年の調べで、この菌が、自治体に引き取られた犬325匹 の74%、猫115匹の57%から見つかっています。菌の感染力は弱く、(今のところ)人から人への感染の報告もないようです。

カプノサイトファーガ感染症は、犬や猫による咬傷や掻傷が原因となって、菌が人の体内に入って起きます。感染(発症)すると、発熱や倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などの症状が出ます。さらに血中で菌が増え、症状が進行し、重症化すると、敗血症や髄膜炎を起こし、播種性血管内凝固症候群症(DIC)や敗血症ショック、腎不全、多臓器不全で死亡することがあります。

犬や猫に咬まれたり、引っ掻かれるなどした後、2〜7日経過して、上記症状やショック症状などが出て、驚愕し、慌てて医療施設に駆け込むケースが多いようです。早い診断(菌の発見)と適切な治療(抗生剤の投与など)で回復、治癒が可能で、必要以上に恐れるような病気でなく、(現時点で)感染症法の届け出対象疾病にもなっていません。

カプノサイトファーガ感染症の他に、犬や猫から人に移る病気(動物由来感染症)として、狂犬病やパスツレラ症、猫引っ掻き病、コリネバクテリウム・ウルセランス菌感染症などが知られています。狂犬病に罹患すると、ほぼ100%死亡します。また、パスツレラ症や猫引っ掻き病、コリネバクテリウム・ウルセランス菌感染症に罹患した場合でも、稀に重症化し、敗血症や髄膜炎、呼吸困難、脳炎などを併発して亡くなることがあります。

カプノサイトファーガ感染症も、今のところ、その発生報告や発症患者、死者の数が少なく、稀にしか発症しない感染症と考えられます。しかし、犬や猫の咬傷、掻傷による事故は、国内各地で多発していると思われ、実際には、この感染症が、もっと多く発生していると考えられます。風邪や食中毒と見做し、見逃されている患者も多いと見られ、安心出来ません。厚生労働省も5月21日付けで、関係機関に文書「カプノサイトファーガ感染症に関するQ&Aについて」を出して、感染しないよう注意を喚起し、行政機関への発生情報の提供(報告)を求めています。

カプノサイトファーガ感染症についても、その感染予防対策として、

  1. 犬や猫に触れたり、その排泄物を処理した後は、手洗いやうがいを行う。口移しで餌を与えない。犬や猫と過度の接触(触れ合い)は避ける。
    手洗い・うがい
  2. 犬や猫と過度の接触(餌の口移しやキッスなど)をしたり、咬まれたり、引っ掻かれるなどして、発熱や頭痛など体調の悪化が認められた時は、早く医師による診断と治療を受ける。
  3. ペット施設(周辺を含む)にいる犬や猫の健康状態や行動に気をつける、飼育環境の衛生(清潔)保持を心がけ、排泄物は速やかに処理する。

ことが求められます。

福祉介護施設でも、上記厚生労働省から出た文書を入手して、カプノサイトファーガ感染症の発生や予防(治療)等に関する知識(情報)を、職員の間で共有して、この感染症が施設で発生しないよう、十分に注意して下さい。

(2010.7.16)