第81回:『インフルエンザや感染性胃腸炎が流行の兆し、感染後の誤嚥性肺炎の発生を防ぐため、口腔ケアの推進、徹底を!』
11月下旬から、インフルエンザや感染性胃腸炎が国内で流行の兆しを見せています。今のところ、インフルエンザはAH3亜型(A香港型)が多く、次いでB型で、AH1亜型(Aソ連型)の患者は認められません。また、感染性胃腸炎もその殆どがノロウイルスによる感染です。
ノロウイルスによる感染では、死亡者が出ています。千葉県の医療施設で発生した院内感染で、入院患者2人(80代の男女)が誤嚥性肺炎などを併発して死亡しています。
インフルエンザや感染性胃腸炎の感染(集団発生を含む)は、学校や保育施設、飲食提供施設、福祉介護施設でも発生しています。今のところその発生件数(報告数)は、昨季に比べて少ないようです。これも、多くの施設で感染予防対策(手洗いやうがい、消毒、咳エチケット、マスク着用など)に加え、口腔ケア(歯磨きなど)の取り組みが積極的に推進、徹底されているからと思われます。
しかし、安心は出来ません。介護施設等に入所する要介護者の口の中(口腔)は、とかく見過ごされがちで、清潔に保たれているとは限りません。食後の歯磨きやうがい(洗口)などがきちんと行われないと、口の中は細菌など微生物の"住み家"になってしまいます。
70代以上の高齢者(とくに食物や唾液を飲み込む力や、咳(せき)や痰(たん)を出す力が低下した寝たきりなどの要介護者など)は、要注意です。食物や唾液などが胃に送り込まれず、気管や肺へ入り込むことがあります。その際、口の中に存在する細菌(肺炎球菌など)が食べ物や唾液等と一緒に気管や肺へ入り込んで、気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症を起こします。このような身体に悪い影響を及ぼす細菌を、口の中から取り除くケアが必要になります。
口腔ケアについて、施設入所者を対象にした調査結果から、肺炎などの感染予防に大きな効果があることが分かっています。食後の歯磨きに加え、歯科衛生士による専門的な口腔ケアを行ったグループは、そうでないグループと比べ、肺炎の発症率が40%あまり低くなっています。
また、肺炎になった70歳以上の高齢者のうち、その80%が誤嚥性肺炎という報告もあります。
口腔ケアは、医療の現場でも実施されています。口腔内の細菌が、感染症(肺炎や創部感染など)の発生や、持病(心臓病や糖尿病、腎臓病など)の悪化、早産や動脈硬化、脳梗塞などの発症に深く関わっていることが明らかになったからです。上記疾患の発生や重症化を防ぐため、術前や術後等の患者管理に、歯科医師や歯科衛生士等による口腔ケアを導入する医療施設が増えています。
今年8月10日に「歯科口腔保健の推進に関する法律」(法律第95号)が施行されました。
この法律は、口と歯の健康保持の推進に関する施策を総合的に推進し、国民保健の向上に寄与することを目的として作られています。その目的を達成するため、法律の中で下記3つの基本理念を掲げ、その実現に向けて国や地方公共団体の役割、責務などを明記しています。
を明記しています。
しかし、この法律では、歯科口腔保健の推進に必要な施策の義務づけがされておらず、財政措置も努力規定とされ、具体的な施策の取り組みは行政に委ねられ、予算措置も殆ど講じられていません。
とは言え、歯科医療分野で、歯科疾患(虫歯や歯周病など)の予防や、早期の発見・治療を促進する"総合的な口腔保健"を推進する法律が公布、施行されたことは、非常に画期的な出来事です。国や地方公共団体が、上記3.に記す各関連分野と連携、協力し合うことにより、口と歯の健康保持が(今以上に)一層図られ、身体の健康保持につながります。口腔内細菌が原因となった感染症(誤嚥性肺炎など)や重篤な疾患の発生を抑えたり、持病の重症化を防ぐことが十分に期待されることは言うまでもありません。
12月に入り、来年3月にかけてインフルエンザや感染性胃腸炎が国内各地で多発(流行)すると思われます。要介護高齢者の健康状態に十分気を配りながら、インフルエンザや感染性胃腸炎の集団感染が発生しないよう、上記感染予防対策の取り組みを徹底して下さい。その際、口腔ケアも一緒に取り組んで、口や喉の中の細菌が原因となった感染症(誤嚥性肺炎など)による死者が出ないよう、十分に注意して下さい。
(2011.12.14)