●食中毒関連情報
第1回:『食中毒予防』
近畿大学農学部教授 米虫 節夫
毎日、雨がしとしとと降り、うっとおしい天気の続く季節となった。筆者の住む関西地方での梅雨明けは平均的に7月20日前後といわれているので、それまではこの天気が続くことになる。気分までよどんでしまう毎日である。
高温多湿のこの時期、我々にとってはうっとおしい毎日であるが、カエルをはじめ一部の生物にとってはわが世の春である。カビや細菌のような微生物にとっても同じである。適当な温度・湿度・栄養があると、カビや細菌は短時間で発育・繁茂する。もっとも、微生物すべてが食中毒などの原因になるわけではない。我々人類に役に立つ微生物も多い。しかし、梅雨期から夏期にかけて食物に生えてくる微生物は、食中毒の原因となることが多いので要注意である。
一般的に、食物に微生物が生育し食中毒になるのを防ぐ方法を、食中毒予防3原則といい、微生物を『付けない、増やさない、殺す』事を言う。調理師や栄養士などの食品衛生教育では、この食中毒防止3原則が強調されている。日常生活でもこの3原則は利用できる。ではどうすればよいのか。
■3原則の第1は、まず食物に微生物を「付けない」である。
汚い手や器具で調理をすると、手や器具に付着していた微生物が食物に付着する。対策は、手や器具を洗剤などを使って良く洗い清潔に保つことである。しゃもじや取り箸が微生物汚染されていて、清潔な食材を汚し食中毒を引き起こした事例もある。注意が肝要である。
■3原則の第2番は、微生物を「増やさない」である。
微生物は温度・湿度・栄養があると爆発的に繁殖する。多くの食品は水分を多く含み栄養もある。湿度と栄養がある限り、温度さえ適当であれば微生物は発育するので、我々が制御できるのは温度だけである。多くの微生物は人をはじめとする哺乳動物などの体温である37℃程度で活発に発育するが、温度を低くすると発育速度も低下する。冷蔵庫などに食品を保管するのは、この意味で理にかなっている。ただ問題は冷蔵庫の中ででも生育する低温を好む微生物が存在することである。冷蔵庫の性能を過信せず、先入れ先出しの精神で、作った食品は早く食べてしまうことが食中毒予防にとって大事である。
■3原則の最後が「殺す」である。
手や食材は殺菌剤が添加された薬用セッケンで洗うことにより付着微生物を殺すことが出来る。更に、多くの微生物は料理の過程で行われる各種の「加熱」処理により死滅する。腸管出血性大腸菌O157:H7の殺菌条件としてよくいわれた75℃・5分は、大腸菌など多くの病原菌を殺すには十分すぎる条件である。微生物を殺した後は、また3原則の第1番「付けない」の世界にもどる。
厚生省は、平成9年3月31日「家庭を原因とする食中毒の防止について」という通知文書を出し、「食中毒予防の6ポイント」として、食品の購入から、家庭での保存、下準備、調理、食事の過程及び残った食品の処理などに対する対策を述べている。要は食中毒予防3原則をどう守るかが、食中毒予防の決め手であろう。
梅雨期から夏期にかけてのこの時期、健康に留意し食中毒などを起こさないように頑張りたいものである。
■プロフィール
米虫節夫(こめむし さだを)
1941年生まれ
大阪大学 工学部 発酵工学科卒
工学博士
【現在】
- デミング賞委員会委員
- 日本品質管理学会 関西支部 幹事長
- (財)日本規格協会 食品安全ネットワーク会長
- 高度な清浄環境空間の清掃方式検討委員会 委員長
- 日本防菌防黴学会 評議員・理事
- 食品微生物制御システム研究部会 部会長
- ASEV日本ブドウ・ワイン学会 理事 など